先日はーちゃんの散歩中に今年一番の黄色い曼珠沙華を発見。ああこの季節が今年も来たんだな…今回は曼珠沙華が結果的にアタシみゆまっしーをメキシコに誘った、小説よりよっぽど小説チックな本当の話をこっそり全世界に公開しよう。
その話を始める前に。皆さんは曼珠沙華の楽しめるこの場所をご存知だろうか?
秩父の手前、日高市巾着田。高麗川が蛇行して巾着のような形をした地形に、約500万本の曼珠沙華(彼岸花)が9月中旬から10月上旬に咲き誇る。そこでその最盛期は多くの人が訪れる知る人ぞ知る観光スポットである。
そう。もうあれは15年近く前。私もまたこの場所で、儚げでいて実は芯の強そうな赤い花々をひとりの友人とともに楽しんでいた。
その数ヶ月後。この場所に彼と来たことを死ぬほど後悔するなんて、これっぽっちも思わないで。
..............................................................................
「知ってる?この花ってきれいだけど、毒があるんだよ」
「De veras? ホントー。コワーイ。」
私たちは日本語・スペイン語チャンポンの話をしながら、ちょっとまだ5分咲きくらいの曼珠沙華の群生地の遊歩道をくねくねと進んでいた。周りはおばちゃんだらけ。時々このアヤシい2人組に目線を走らせてくるけど、それよりはやっぱり曼珠沙華を楽しんでいる。
彼と会うのは今日が知り合って2回めだ。
初めて知り合ったのは通勤途中の都営新宿線のなか。特に読む本がないのでたまたま持っていたスペイン語のポケット辞書を開いていたら、隣に座っている若い男性が急に
「それ、スペイン語ですね」
と、話しかけてきたのだ。日本語でだったかな?スペイン語でだったかな?もう忘れたけど。
スペイン語を話すのが大好き!スペイン語が話したいからスペイン語圏に行くのか、スペイン語圏に行きたいからスペイン語をそれなりに勉強するのか、もうわからないくらいスペイン語ラブの私はもう嬉しくって嬉しくって、そこから自分が降りる駅までの20分間彼と雑談を楽しんだんだ。
どうやら彼も同じだったらしい。いや、本当は私以上だったらしい。後で聞いたけど、スペイン語を久しぶりに話せて涙がでるほど嬉しかった、らしいから。
最終的にはメアド交換をしてその日は別れた。
別れるときに「じゃあね!必ず連絡しあおうね!」
私からそう言ったのに。
私は薄情にもすっかり忘れて、相変わらずバタバタ忙しく遊んだり遊んだり遊んだり仕事したりしていた。
まあ、ね。恋に落ちてドッピューーン!とかの要素があったらイキナリその夜のうちに一発メールを送っていたりしたかもしれないけど。
そーいう感じじゃないし。まず歳が一回りも下だし。10代だ?いやいやアタシ犯罪者になるのは嫌だわ。で、彼からもそんなオーラは微塵も出ていなかったし。そういうのは無いね。うん。
まあ偶然電車で隣同士になって、あ、飴ちゃんあるよ?いる?イヤー、アツいねえ。ドコの国から来たの?ふーん。メキシコなんだ。アタシメキシコ行ったことあるよ。って行ってもロス・カボスだけど。あそこはアメリカだね!米ドルと英語ですべて済むね。つまんなかった!いいな〜本国行ってみたいな〜。ふーんメキシコシティなんだ〜あっちはアツいの?・・・あ、もう次が降りる駅だ。スペイン語話せてほんと嬉しかった!声かけてくれてありがとう!
それで終わりの関係。それもありでしょ。っていうかそんなのばっかりでしょ、普通。
そして出会って2週間後。
彼からメールがあった。多分彼もいろいろ忙しかったんだろう。で、なんて言ってきたか?そんなのは忘れちゃったけど、まあ結果的に赤い花を前にして再会したわけだ。
この場所を選んだのは私。彼がその時秩父に住んでいたし、私は子どもの頃よく家族で遊びにきた原風景みたいな場所だったし、季節は9月。デートにはいい場所なんじゃないかな?って思ったの。
そのとき話の流れで住む場所を探している、って話になったんだ。
今いるホームステイ先は、もう出なくてはいけない。既に3ヶ月日本にいるが日本語学校はおしまいにする。お金的には厳しいけど英会話教室の講師の職につけそうだし、せっかく日本に来たんだからこれで帰国してすぐ向こうで就職するより、もうちょっと日本に居たい。京都や広島にも行ってみたいし、もっと日本のことを知りたいと思う。安いアパートっていくらくらいで借りられるんだろう?
ふーん。
そのとき私の頭のなかにある考えが浮かんだ。
浮かんだと同時に私の口はしゃべりだしていた。
だったらさ。うちの実家に来れば?
日本にもう少しいるっていっても数ヶ月なんでしょ?そのために部屋借りるっていっても、冷蔵庫にナベカマ…生活用具一式を揃えるとなったらバカにならないよ?
アタシは今は家を出て一人暮らしだけどさ。実家はちょうど2世帯住宅の作りになっていて、両親が住んでいない二階はアタシが時々帰るだけだもん。冷蔵庫もテレビもみんな一応揃っているし。
光熱費だのをきちんと払ってくれれば家賃はいらないんじゃない?親に話してみるよ。
この日さっそく東京郊外の実家に帰った私は、このことを両親に告げた。私の行き当たりばったりに物事を進める性格を30年で熟知している母は、それほど驚くでもなく全てを聞いた後にこう言った。
「言葉なんて英語もスペイン語もわかんないし。いっさい面倒はみないわよ。」
「あ、それは大丈夫。ちゃんと自分で自炊できるって。単に部屋を貸すだけ。今はアタシが時々帰るだけの二階に、ちょっと数ヶ月人がいるだけ。光熱費は入れてねっていってあるし。迷惑は一切かけないよ。」
「本当に数ヶ月なのね。まあ、じゃあ勝手にいるだけなら、どうぞご勝手に。 」
こうして次の週末。彼は私の実家の2階に引っ越してきたのだった。
第二話に続く↓
◉ここでの「彼」が登場する関連ページ